
松戸に在住の60代女性が慢性的な腰の痛みを訴え、当院に来院されました。この痛みは半年ほど前から続いており、当初は軽い違和感程度だったものの徐々に痛みが強くなり、今では日常生活にも支障をきたすようになっています。特に朝起き上がる時や、うつ伏せで寝た時に「腰が詰まるような」強い痛みを感じるとのことでした。
また腰痛の影響か股関節の動きも硬くなっており、歩く際に足を前へ出しにくい感覚があると訴えています。以前、整形外科でレントゲン検査を受けた際には「骨には特に異常がない」と説明を受けていますが、それにも関わらず痛みが改善せず、むしろ悪化傾向にあるため不安を感じての来院でした。
普段の生活では、買い物や掃除など立ちっぱなしの姿勢で痛みが出やすく、座っていても腰が重くなるとのことです。また運動習慣は少なく最近は外出することも減っていたため、筋力低下や柔軟性の低下も痛みの慢性化に関与していると考えられるとの事です。
検査
初診時の検査では、腰部から骨盤にかけていくつかの特徴的な所見が見られました。
①腰椎ROM(腰の可動域)
腰仙部(腰の一番下)の伸展方向への可動性が強く、いわゆる「反り腰(腰椎過前弯)」の傾向が明確。椎間関節の圧迫ストレスが高く、腰を反らす動作で痛みが誘発される。
②脊柱の可動触診
背骨に圧を加え、関節の動きを確認する可動触診(モーションパルペーション)では胸腰移行部(背中の下部)のスプリング性の低下が確認された。
③触診検査
筋肉の緊張を確認する触診検査(スタティックパルペーション)では腸腰筋の短縮が著明で、腹部から股関節前面にかけての柔軟性低下が確認された。
④股関節ROM(股関節の可動域)
股関節伸展制限(特に右側)を認め、歩行時に骨盤の動きが制限されている。
④姿勢検査
仙腸関節周囲の筋緊張も強く、長時間の立位保持で腰全体の緊張が増す傾向。
これらの結果から、主な原因は椎間関節の機能障害(椎間関節症候群)と考えられました。反り腰によって腰椎後方関節に過剰な負担がかかり、さらに腸腰筋の短縮がその姿勢を助長している状態です。
治療
治療方針としては、腰の反りを助長している筋肉の緊張を緩め、腰椎と骨盤のバランスを整えることを目的としました。施術は段階的に行い、次のような手技を中心に進めました。
①アジャストメント
胸腰移行部および腰仙部へのアジャストメント(関節音を伴う矯正)を実施し、椎間関節の可動性を回復させる。
②グラストンテクニック
腰椎起立筋群へのグラストンテクニック(ステンレスのバーを使用する筋膜リリーステクニック)を用いて、筋肉の癒着を丁寧に剥がす。
③マニピュレーション
手技(マニピュレーション)により腸腰筋への深部筋リリースを行い、股関節前面の柔軟性を回復させる。
④モビリゼーション
股関節モビリゼーション(関節音を伴わない矯正)で動きを滑らかにする。
治療は当初、1週間に1〜2回のペースで行った。
経過
初期(1〜2週目)
筋肉の癒着が強く、施術後も腰部の張り感が残る。可動域改善はわずか。
3〜4週目
腸腰筋の柔軟性が少しずつ回復し、股関節の動きがスムーズに。歩行時の違和感が軽減。
1ヶ月後
朝の起き上がりが楽になり、うつ伏せ姿勢での詰まり感が減少。腰を反らす動作でも痛みが出にくくなった。
2ヶ月後
腰の可動性が安定し、長時間の立位でも痛みの再発はほとんど無い。
全体として、筋膜の癒着改善と骨盤周囲の動きの回復が進むにつれて、痛みの再現が減少。特に腸腰筋と椎間関節の連動改善が、腰への圧迫を大きく軽減させたと考えられる。
解説
今回の症例は、椎間関節症候群と呼ばれる状態で、一般的な腰痛の中でも比較的多いタイプです。特徴は、「腰を反らすと痛い」「長時間立っていると重だるい」という症状で、腰の関節圧迫を特徴としますがレントゲンやMRIでは異常が見つからないことがほとんどです。
ご年齢的要素によりますが、通常の椎間関節症候群は数回の治療で回復するところ、今回は安定までに2カ月かかりました。痛み自体は半年前から発症との事でしたが股関節の歪も重なり、その前からバランスの乱れが蓄積されていたと考えられます。関節圧迫が長期に渡り、周囲の靭帯や軟骨に癒着が生じると回復に期間を要するケースが多くなります。
反り腰=椎間関節症候群
近頃は反り腰というワードが知られるようになりましたが、椎間関節症候群は反り腰そのものです。反ることにより腰の後ろに位置する関節が圧迫を受ける形となり、長時間の立位やうつぶせ寝は状況を悪化させ女性に発症しやすい病変になります。今回のよう回復には、周囲股関節や脊柱バランスからの「全身的側面」、及び反った関節そのものへのグラストンテクニックや矯正などの「局所的側面」、両面へのアプローチが必要になります。
担当カイロプラクター:鷲見光一
応用理学士(医科学)
カイロプラクティック理学士
グラストンテクニック®GTクリニシャン
日本カイロプラクターズ協会(JAC)正会員
都内カイロプラクティック院にて副院長を務めた後、2017年に独立。国際基準のカイロプラクティックだけでなくグラストンテクニックのライセンスを取得し、物理療法を駆使した施術法を確立。臨床歴20年以上のオーストラリア政府公認カイロプラクター。
監修者:鷲見弘
取得国家資格/鍼灸師、柔道整復師(接骨)、あん摩マッサージ指圧師
慶応大学卒業後、人体や自然界への探求心によりカイロプラクティックの道へ進む。ユニバーサル・カイロプラクティック・カレッジ、 中央医療学園鍼灸学科を首席として卒業後、JSK鍼灸カイロプラクティックを運営。音楽家の腱鞘炎等の演奏障害を得意分野とし、多くの著名ピアニストの治療を担当。






